タブー~発禁の誘惑~
展覧会情報
開催期間
2020年9月12日 〜 2020年12月6日 まで
概要
文豪・谷崎潤一郎の生涯は八十年に及び、作家としてのキャリアも半世紀をこえます。 その間、時々の世のタブーと危うい摩擦を引き起こし、時に発禁の憂き目に遭いながらも、歴史の荒波と社会の転変を見事に掻いくぐり、物書きとして生き延びてきました。文壇デビューの頃の、若き「異端児」谷崎の過激な筆致は、作家としての挑発的ともいえる試行錯誤でしたが、猥雑と不道徳とをよしとしない当局の見過ごすところではありませんでした。 やがて、そんな作家谷崎の軌道は、大正期のデモクラシーとモダニズムの社会風潮の高まりと共鳴し、さらには煽動してもいきます。 「痴人の愛」の引き起こした社会的反響とその新聞連載中断の事情には、そうした大正期の文化的潮流とともに、やがて来る「戦争の時代」の予兆も刻み込まれていたのです。
「潤一郎訳源氏物語」と「細雪」は、戦争の暗雲の下で執筆されています。これらは、まさに「戦時下のタブー」に触れるものでした。 「源氏物語」では、巧みに当局の目をすり抜けた谷崎でしたが、「細雪」は「自粛」というかたちでの発禁を余儀なくされます。
そして敗戦後十年、「老人の性」に脚光をあてた「鍵」は、「もはや戦後ではない」といいながら、性表現のタブーにいまだ囚われていた昭和30年代初頭の日本に大きな衝撃をあたえたのでした。
表現者ならば誰しもが直面するタブーとのジレンマ―「発禁の誘惑」を通じて、谷崎の文学的世界が成熟していく事情を浮き彫りにしていきます。