篆刻家河野隆遺作展
展覧会情報
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開催期間
2021年10月30日 〜 2021年12月19日 まで
概要
大分県臼杵市に生まれた河野隆先生は、海浜の大らかな自然に囲まれて育ち、横浜に移って横浜翠嵐高校に進み書を志しました。横浜国立大学では書を専攻し、中村淳が担当した篆刻の授業をきっかけに印に取り組むことに決めて、かねて憧れていた生井子華に入門しました。生井子華とその師である西川寧の緊張感に満ちたやり取りを目の当たりにして古典を渉猟するとともに、二世中村蘭台ら近代の篆刻にも強い関心を抱きました。気韻生動を旨としたその刻印には、深遠な古典世界を背景にした潔さと華やかさが同居しています。
公募展では篆刻を主にした河野先生ですが、詩文や書画にも優れ、数多くの作を手がけました。印影に添えられた識語や、自ら主宰した晨風会展などに出品した書幅や額には、練り上げられた各体の書を見ることができます。また、絵筆を揮うこともしばしばで、日々の暮らしのなかで目に留まったものを即座に軽快な筆致で描いていきました。優れた鑑賞眼と筆才で多くの人びとの心に響く随筆や作品解説を遺したことも広く知られています。
同時に、河野先生は高校や大学で教鞭を執った教育者として、また篆刻家としても多くの後進の指導にあたりました。その豊かな人柄と作品で接したすべての人びとを魅了し、周囲に温かい人の輪が途切れることはありませんでした。
成田山では、開基一〇七〇年記念として「御護摩受付所」「納札所」の額を新調し、成瀬映山先生ご揮毫の書を河野先生に刻して頂きました。この木額は、今日も風合いを増しながら成田山の境内を見守っています。今回の遺作展は、日展や現代書道二十人展などに出品した代表作を中心とするもので、古河市篆刻美術館、第三十三回全日本篆刻連盟展における遺作展の殿に位置するものです。古稀を目前に惜しくも彼岸に旅立たれた河野隆先生の、生涯にわたる創作活動をご覧いただきたいと思います。